(高崎) 高崎市歴史民俗資料館――先人の暮らしを知る

(2017年8月30日)

 昔の人々が生活や仕事で使っていた道具は、民具と呼ばれている。この民具をはじめとした民俗資料を、保存・展示している施設が民俗資料館だ。民俗資料館は各地にあるが、中でも高崎市歴史民俗資料館は、展示の質の高さで知る人ぞ知る存在だ。
 様々な知恵や工夫が詰まった民具は、若い人にとっては新鮮で、年配の人にとっては懐かしい暮らしを伝えてくれる。

往時の生活を偲ぶ

 資料館の中には、生活や商工業で使われてきた数々の民具が、実際に使われていた当時と同じように設置されて展示されている。高崎市歴史民俗資料館では、ほとんどの民具が見るだけではなく、実際に触れたり、戸棚や引き出しを開けてみたりすることができるし、展示の中に入って写真撮影をしたりすることもできるのが楽しい。

 昔の台所を再現した「いろりのある部屋」では、囲炉裏とかまどが再現され、飯炊き釜から電気炊飯器まで、新旧の台所用品が所狭しと並べられている。また、はきもの屋や駄菓子屋を再現したコーナーもあり、中には当時販売されていた商品が未開封のまま展示されているものもある。それぞれに丁寧な説明カードが添えられ、当時の使い方などを知ることができる。

 戦時中の暮らしに関する展示もある。高崎は戦前まで大日本帝国陸軍歩兵第15連隊があり、軍事都市でもあった。出征した軍人や当時の市民の衣服や持ち物が展示されており、軍で大量のご飯を炊くための洗米器や、焼け焦げた認識票など、ふだんあまり触れられないところまで、当時の生々しさが伝わってくる。他にも当時の高崎の地図や、高崎に落とされた焼夷弾(不発弾)なども展示されている。
 その隣の部屋には、その頃の小学校の教室も再現され、当時使われていた天板が開閉する机などが並んでいる。もちろん、こちらもじかに触れて体験することができる。

 学芸員の大工原さんは、展示は小学生にもわかりやすく、お年寄りにも親しめるように、しかも他で紹介されていないような情報にこだわって工夫して展示しているという。興味深いのは、デイサービスでお年寄りが来館することがあるということ。認知症になったお年寄りでも、民具を見ると過去の記憶が呼び覚まされることがあるそうだ。

高崎らしさを表すテーマ展示

 高崎は、古くは城下町、商業の町として、戦後では音楽の町として有名だ。高崎市歴史民俗資料館では、このような特徴に沿った展示も行っている。

 二階の一番奥の展示室「高崎城甍(いらか)の間」では、高崎城を復元したジオラマを中心に、江戸時代の高崎城や、高崎の町で使われていた様々な道具が保存・展示されている。

 また、同じく二階の「商いの部屋」(冒頭の写真)では、当時の帳場の様子が再現されているほか、前掛けやだるまなど、当時の商売に欠かせなかったものや、思わぬ工夫も見ることができる。
 中でも手ぬぐいコレクションは一見の価値あり。現在でも業者が挨拶でタオルを配ったりすることがあるが、昔は店の名前や、店を象徴する柄を染め抜いた手ぬぐいが使われていた。この柄も、謎かけや洒落が含まれていたりして面白い。資料館では、高崎で使われてきた手ぬぐいを大量に収集しており、その一部を展示している(ときどき、企画展でもっと多くの手ぬぐいが展示されることもある)。デザイナーが「高崎らしいデザイン」の参考にするために、この手ぬぐいを見に来ることもあるそうだ。

 「音楽のある街高崎コーナー」では、蓄音機やオープンリール、レコードなど昔の音楽に関わる民具を展示しているほか、高崎の音楽文化を象徴する群馬交響楽団や、音楽喫茶「あすなろ」に関する説明も添えられている。

技術も保存する資料館

 高崎市歴史民俗資料館で保存・展示しているのは、民具だけではない。資料館の1階にある「はたおりの部屋」には、機織りに使われてきた道具が一通り保存されているが、さらにボランティアの方々の手によって、この地域に伝えられてきた機織りをそのまま伝承している。道具だけでなく、機織りの技術も保存しているというわけだ。

 「はたおりの部屋」には、機織りの作業の手順がパネルで紹介されているが、水・金曜日にはボランティアの方々がこの作業を実演している。機織りと言えば、高機を動かす作業ばかりが注目されがちだが、実は経糸(たていと)を張る作業が一番難しいという。経糸の長さはすべて揃えなければならないので、そのためには計算が必要だ。それをくしのように細い隙間に1本ずつ糸を通していく「筬通し(おさとおし)」という作業(写真)は、神経を使う細かい作業だ。

 筆者(吉田)も織機を動かす機織り作業を体験させてもらったが、力の加減が難しく、なかなかうまくできなかった。しかし、不思議なことに何も考えずに作業を続けてみると、少しの間だが織ることができた。 

※機織りは水・金曜日の午前10時~午後3時に実施されている。休みのこともあるので、実演の見学や体験をしたい場合はあらかじめ問い合わせておきたい。機織りが休みでも、機織り関係の資料は見学可。

 その他、入口付近では季節の民具が展示されていることもある。蛍籠は倉渕村で作られていたもので、近年になって資料館からの働きかけで製作方法が受け継がれたそうだ。
 ちなみに、花が生けてある器は、よく見ると古いお釜だ。このような古い民具の再利用の再利用方法も提案しているのも興味深い。

 

 高崎市歴史民俗資料館は入場無料で、幅広い年齢層が楽しめるようになっているので、気軽に足を運んでみたい。高崎や群馬に興味を持っている知り合いがいれば、一緒に行ってみると話が弾むだろう。運が良ければ学芸員さんから直接話を聞いたり、機織り体験をしたりすることができるかもしれない。

高崎市歴史民俗資料館について

【開館時間】

 午前9時~午後4時

(機織りは水・金曜日の午前10時~午後3時)

【休館日】

  • 月曜日
  • 祝日の翌日
  • 年末年始

【入館料】

 無料

【連絡先】

 高崎市歴史民俗資料館ホームページ

 ☎027-352-1261

 

【交通案内】

バスの場合:

  • JR高崎駅西口から群馬中央バス県立女子大学行で「慈眼寺裏」下車徒歩3分
  • ぐるりん群馬の森線で「滝川郵便局入口」下車、西へ徒歩15分
  • JR高崎駅東口から群馬バス亀里JAビル行で「下滝西」下車徒歩8分

自動車の場合:

 群馬県道24号(高崎伊勢崎線)で高崎から約6km。高崎ICから約2.6km。高崎玉村ICから約3km。

 駐車場は大型車3台、普通車20台。

(取材・文/藤本理弘・吉田宏文、写真/藤本理弘)


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