榛名川上流砂防堰堤――文化財の砂防ダムを訪ねて
広い境内に幽玄な雰囲気をたたえている榛名山の榛名神社は、一年を通じて多くの観光客が訪れている。近年はパワースポットとしても有名になっているが、数多くの文化財を有していることでも有名だ。ところで、この榛名神社の奥に、一味違った国指定の文化財があるのをご存知だろうか。
その名も「榛名川上流砂防堰堤」、砂防ダムが国指定登録有形文化財として登録されている。榛名神社から徒歩数分の場所にあるが、観光マップには記載されていないことが多いためか、訪れる観光客は少ないようだ。
榛名神社の奥にある一味違った文化財
榛名神社の境内を進み、階段を上って双竜門をくぐると、その一帯はほとんどの建物が国指定重要文化財に指定されている。拝殿の背後にある本社は、御姿岩に食い込むように建っている特殊な構造のものだ。ここまで来た参拝客の多くは、道を引き返して帰っていく。ただ、拝殿の右手にも通路があり、その先は下り階段になっている。
階段を下っていくと、社務所の裏手に出る。ここには、参拝客向けのトイレがあるが、そこからさらに下る階段があるので、これを下りていくと、榛名神社の裏門に出る道につながる。この辺りから、すでに榛名川上流砂防堰堤が見えてくる。
堰堤の手前には門のような小さな建物があるが、ここにはおよそ江戸時代全期にわたって(1631~1869年)榛名山番所が設置されていたという。信州・草津方面から高崎方面に抜ける草津街道は、榛名山の西側を通っており、そこに大戸関所が設けられていたが、榛名湖を経由する裏街道では、この榛名山番所が通行を取り締まったという。当時、榛名湖から室田・高崎方面に下る道はこの道しかなく、しかも谷が狭まったところであるため、番所を設置するには好都合だったのだろう。現在では番所を偲ぶものはわずかしか残っていないが、ここは高崎市の史跡に指定されている。
技術の粋を集めた榛名川上流砂防堰堤
さて、門のような建物をくぐると、すぐに巨大な堰堤の前に出る。高さ17m、幅69mの巨大なもので、昭和30年に建設されたものだ。
ここを流れる榛名川は、過去にたびたび水害を起こしてきた。特に、明治43年や昭和10年には甚大な土砂災害が発生し、その復旧工事を行う際に、同時に砂防堰堤(砂防ダム)の建設が行われた。この堰堤は練石積といいって、斜めに石を積んで、その間をコンクリートで固める方法で作られている。この技術は、建設当時の技術の粋を集めたものだそうだが、コンクリート一色の砂防ダムとは異なり、周辺の自然とよくマッチした景観を作り出している。
よく見ると、堰堤本体にも排水口がいくつか作られており、そこから勢いよく水が噴き出していて、堰堤を越えて流れ落ちる水とともに、滝のような様子を見せている。風が吹くと、水しぶきも感じられることもある。
砂防堰堤の左側には整備された歩道があり、堰堤の上を越えて反対側に行くことができるようになっている。足元も整備されているので、特に登山用の靴でなくても問題なく歩いて行ける。
九折岩と榛名川の清流
榛名神社側から見ると、堰堤の背後には変わった形をした九折岩(つづらいわ)がそびえているのが見えるが、堰堤を越えるとより近くではっきり見ることができる。九折岩も高崎市指定名勝、つまり文化財だ。榛名神社の境内の中にも数々の奇岩があるが、九折岩はブロックを積み上げたような外観で、とりわけ不思議な形をしている。
また、もう少し進むと榛名川の河原に出られるところもあり、榛名川最上流の澄んだせせらぎに触れることもできる。その先は道も階段状になり、天神峠を通じて榛名湖に行くこともできる。
このように、榛名神社のさらに奥には、一味違った文化財が静かにたたずんでいる。特に、草木が茂る前の春の時期は、このような構造物を見物するには絶好の季節だ。榛名神社の参拝のついでに、または榛名神社の参拝とは別に、一度訪れてみてはどうだろうか。
【行き方】
榛名神社の奥にある。交通機関や駐車場は榛名神社のものを利用できる。
榛名神社の本社からでも行けるが、榛名川上流砂防堰堤に直接行く場合は、参道の途中、土産物屋の先にある二股の道を右(トイレ方面)へ行く。
榛名神社の本社から堰堤まで徒歩5分程度。